打ち捨てられた客車。
草の生えた線路。
赤く錆びた鉄塔。
はじめて来た土地なのにどこか懐かしさを感じる光景だった。
ここはバッタンバン駅。
かつてカンボジア王立鉄道(Royal Railways of Cambodia、以下RRC)が列車を走らせていた駅だ。
カンボジアの線路は、プノンペンを中心に北線と南線に分かれて国土をほぼ縦断するように敷設されていた。
北線はフランス植民地時代の1929年に着工し、1942年にはタイとの国境ポイペトまで開通した。
南線は1960年に着工、1969年にはシハヌークビルまで開通している。
両線とも線路の幅は1000mm。
東南アジアやアフリカで使用されている規格だ。
日本のJRは1067mmなのでそれよりは若干狭い。
内戦で疲弊した上に、雨季には線路の上に大量の土砂が流れ込み、線路と路盤が同化する箇所も多く、管理を十分に行う事は出来なかった。また予算不足だった事もあり、保安装置の類はなく、運行は乗務員の目視と注意力に頼る事になった。
その為、運行速度は30Km/h前後だったと言う。
かつての車庫は現在もRRCが保有しているが、その中に列車の姿はない。
近くには給水塔が立っており、蒸気機関車が走っていた光景を忍ばせた。
昨年の新聞報道によると、アジア開発銀行(The Asian Development Bank、ADB)支援によるプロジェクトが進んでいる。それは「鉄道リハビリプロジェクト」と呼ばれ、マレーシアからの中古品を利用し、プノンペン~ポイペトとの再接続の計画である。
また中国の企業による接続も検討されており、プノンペン~ホーチミン間の着工を年内に行う計画も進んでいる。
最終的には、北京・上海~ハノイ~ホーチミン~プノンペン~バンコク~クアラルンプール~シンガポールを繋ぐ、東南アジア周遊鉄道も視野に入っている。
そうなれば、貨物輸送が進み、観光客も増えるだろう。
そのうちシェムリアップまで列車で観光に行ける日が来るかもしれない。
この土地に住む人々の中には町の発展を望んでいる人もいる。
それは勿論理解できる。
出来れば自然はそのままに、上手く発展して欲しいと思うのは、外国人のエゴでしかないのだろうか。
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