カンボジアの隣国、タイには「ムエタイ」と呼ばれる格闘技がある。
キックボクシングに似たルールで行われ、特徴の一つとして肘打ちがある。
肘での頭部への打撃は危険な為、一般に知られるような格闘技で、ルール上使用が許されるているのはあまりない。その為か、世界的にも人気は高く、立ち技最強との呼び声も多い。
そしてその歴史は古く、西暦1500年頃が起源とされている。
実はここカンボジアでも、「ムエタイ」に似た格闘技がある。
週末には大勢の人が一つのテレビにかじり付き、歓声を上げ、応援する。
「プラダル・セレイ」と呼ばれるそれは、試合前にリングに上がって祈りの儀式をするところまで「ムエタイ」にそっくりだ。
というのもカンボジアではムエタイの起源はカンボジアであると言われている。
西暦1500年頃。その頃ここシェムリアップは、タイの統治下にあった。その際にタイへ伝わったのだという。
事実、アンコール遺跡群の中に、試合を観戦している様子や、相手の顔面へ向け肘を打っている様子が壁画の彫刻に描かれている。
また、ムエタイのムエという言葉もカンボジア語で1を表す「ムォイ」から来ていて、「ムエ」とは1対1の決闘を意味しているそうだ。
こういった事から、ムエタイの起源はカンボジアにあり、その歴史は1000年以上あると見ていいだろう。
しかし、それを知る人は少ない。
ポル・ポトの時代に殺されたからだ。
当時の政策は平等な社会を作るという物であった為、師匠や弟子という関係を作るものは排除された。また格闘技を知る者は謀反の恐れありとして殺された。
ポル・ポト派の脅威から解放された現在、忘れられた格闘技を復興しようとする団体もある。
(関連リンク:
ボッカタオ)
現在、カンボジアのテレビで放送されている「プラダル・セレイ」は首都プノンペンでのみ試合が行われているが、最近シェムリアップにもジムが出来始めた。
テレビの影響などもあり、タイから逆輸入された技も多いらしい。
数年して選手が育てばシェムリアップにもリングが出来るかもしれない。
そうなれば、現在あまり力を入れていない、情操教育にも影響があるかもしれない。
夢が膨らむ。
「プラダル・セレイ」とは「自由にやっていい戦い」と訳されている。
抑圧された時代に、理不尽な死への恐怖に脅えながら、隠れて体を鍛え、技を磨いた先人達。
その思いを汲めば、「自由への戦い」と訳す方が似合うのではないだろうか。